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「な…那智浦は…その…まだ?」
「……」
喜多見は頬を少し染めて挙動不審のようにキョロキョロしている。
そういえばコイツは最近、蘭に対して態度が可笑しい。
「…蘭に何か用か?」
そもそもこの間だって、コイツが蘭を訪ねて来なければ季岾に会う事もなかった筈だ。
………わかってる。そんなのただの責任転嫁だって。
でも、誰かのせいにしないと…冷静でいられない。
「あ…んと…………これ」
喜多見がポケットから出したモノが、一瞬理解出来なくて…
受け取る事もしないで暫く凝視していたらしい。
「…悪い。本当はもっと早く渡そうと思ってたんだけど、何か…タイミングが…」
といって、俺の手の上にのせた。
「…偶然拾って…あの、ごめんな?なんか…色々…なるべく那智浦に合わせないようにしてたんだけど、あんな事になって…」
「……」
「…俺、誰にも言わないから!…だから…あの…那智浦に…早く元気になって…いや、なんでもない。頼むな、それ!」
「あ、おい…」
真っ赤な顔で走り去った喜多見を、暫く呆然と眺めて…
手に持っているモノに瞳を向けた。
それは、
蘭の眼鏡だった。
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