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「お早うございます。今日はとてもいい天気ですよ。散歩に行かれますか?」
ベッドに寝ていた初老の男性は、傍に置いてある車椅子にゆっくりと身体を起こして座った。
その膝にタオルケットをかけると、静かに部屋を出る。
大きな日本家屋の中庭をゆっくりと進めて、池の畔で車椅子を止めた。
「…ワシを恨んでるじゃろう」
少ししゃがれた声に、車椅子を押していた青年は…
男性の前に跪いて、彼の膝に手を添えるとふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「そうですね。小さい頃は恨んでいたのかも知れません。
でも、僕はそれが嫌で感情を手放しました。
だから恨んではいなかったんだろうと思ってますよ?」
その微笑みは、とても眩しくて…
男性は彼の頭に手をおいた。
「…すまんの。まさかお主からワシに逢いに来るとは思わんかった」
「どうしてですか?」
至極不思議そうに首を傾げる青年に、男性は苦笑を漏らした。
「お前達、親子には随分迷惑をかけていたと…今ならわかるからじゃ」
そう言った男性の瞳は、どこか憂いを帯びていた。
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