34人が本棚に入れています
本棚に追加
頭を撫で擦る手のぬくもりに酔う内、いつの間にか甘い夢の奥深くへと落ちていた。
現では叶わぬ想いが花開き、温かく柔らかな肌と肌が触れ合い、香り高い蜜の匂いが、霞みがかった世界に満ちる。
黒髪を散らした女の唇が震え「ああ……」、吐息と共に紫蘭の花弁がほろほろと零れ落ち、閉ざされた夢幻の世界を埋めて行く。
どこからか流れ着いた薄青い睡蓮が、ふわりふわりと漂い揺れる。
露を溜めた葉に紫蘭が触れると、露はたちまち硝子玉に変わり、きらきら瞬き、さながら万華鏡のように乱反射し世界を映す。
「ああ……」
女の吐息が深くなり、闇の色がじわりじわりと増してゆき、夢幻の終りを告げていた。
姿無きカミの囁きが蘇り、木霊する。
『そなたは何に化けるのかえ――』
たとえ何に変わろうとも、女は花を恋い慕い続けるのだろう。この花園では叶わぬ想いだろうとも……
故に女は無垢で美しい花として、カミの寵愛を受けるのだ。
やがて門に灯が点り、花園の夜が花開く。花の名を冠す者達の誠の想いなど知らぬげに……
了。
最初のコメントを投稿しよう!