舞う風花、潤む山茶花

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     風花が舞っていた。冷たい青空の彼方(かなた)から、真っ白な花弁が幾枚(いくひら)も幾枚も飛ばされ来ては、乱舞する。  己と同じ名を持つそれを朱色の丸窓に(もた)れて眺め、何かを(うれ)えるように微かな息を(こぼ)す。  白と黒が入り混じった(つや)やかな長い髪が、(かげ)りを帯びた横顔を隠した。  髪の色に反し、まだ大人になったばかりの青さが、牡丹(ぼたん)の咲いた着物から覗く、なよやかな脚やしなやかな首、あるいは窓外へと手を伸ばす仕草に宿る。  熟れはじめた果実のような、(ほころ)びはじめた(つぼみ)のような、思わず暴きたくなる色香が漂っていた。 「水揚げ……か」  ぽつりと、青いため息が落ちる。  初めて客を取る――色を売る身となれば、避けては通れぬ道。それは出発点に過ぎない。禿(かむろ)から色子(いろこ)へ、子供から大人へと否応無(いやおうな)しに時は移る。  それをただ黙って受け入れるしかない辛さは、身に染みて分かっていた。 「御兄様(おあにいさま)。御用でしょうか」 「お入り」  (ふすま)を静かに開け入って来た少年の顔に、笑みはなかった。  いつものやんちゃは鳴りを潜め、悄然(しょうぜん)と肩を落としている。 「()り手から話を聞いたんだね。こちらにおいで」  窓から離れ、居住いを正した青年の前に座り、少年は目元を拳で拭う。勝気な瞳が濡れて光っていた。
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