舞う風花、潤む山茶花

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 白い大輪の空中花を背景に、窓のすぐ側に色とりどりの山茶花(さざんか)の花が、身を寄せ合って咲いている。  (にぎ)やかな花達も、今は少年の心を映し、静かに泣いていた。  その寂しげな香りが冷たい空気を伝い、部屋の中にも漂ってくる。 「サザンカ……なんてどうだい」 「サザンカ……」 「嫌かい?」  少年はふるふると(かぶり)を振り、真っ赤な目をしてぎこちなく微笑む。目尻に溜まった涙の雫が、(きら)めいた。  それがあんまり(かな)しくて、青年はきつく少年を胸に抱く。 (ああ……こんな事にもいつか、慣れる日が来るのか。あの日、(かこ)を捨てたように)  少年の震える手が青年の背に回り、強く着物を握る。  同じ道を歩む事が、(たもと)を分かつより辛い時もあるのだと、こうなって初めて思い知った。 「髪を結ってあげよう。そろそろ、舞の稽古の刻限だろう?」  身を離すと少年を鏡台の前に座らせ、細く柔らかな髪を丁寧に(くし)()く。僅かに(うつむ)いた少年の(うなじ)の産毛の一本一本までが、長く射し込む冬の日の光に透け、淡く輝いている。  ――静かだった。ゆっくりと過ぎ去る時の音さえ聞こえそうな、そんな静けさが満ちていた。
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