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ここは何処かの家の縁側だろうか。
前にはごく普通の障子。
私の後ろには中庭らしきものがあり、見事な日本庭園が広がっている。
私は、気付くとそこにいたのだ。
此処は何処なのだろうか。
私はそんな事を考えながら、前の障子をじっと見つめた。
よく見るとその障子の向こうに、薄明かりに照らされる人影の様な物が映し出されていて、私はそれに興味を惹かれた。
開けていいのだろうか。
しかし、此処が何処なのか、さらには自分が誰なのかも思い出せないこの状況で、軽率な行動は避けた方がいいのかもしれない。
もし此処が他人の家だとしたら私は不審者という存在だからだ。
その時中から声がした。
「どちら?」
こちらの存在がばれてしまったのであろう、その言葉は明らかに私に向けたものだった。
だが、その声は私に何処か懐かしさを感じさせる女性の声だった。
いっそ、この障子を開けてしまおうか。
ふと私にそんな考えが過る。
私は、考えれば考えるほどその女性の声の主が気になって仕方がないのだった。
どうしても知りたい、そんな欲求に勝てなくなった私は声の主に返事をして見ることにした。
「ああ、私だよ。」
簡単な答えではあったが、障子の向こうの女性が私の知人であるならば、私の存在が誰なのか教えてくれるだろう。
そう、私は考えた。
私の思惑通り、障子の向こうの主は答えた。
「慎太郎さん?そんな処にに立っていないで入って来なさいな。」
慎太郎、それが私の名前なのであろうか。
呼ばれた以上入るしかないが、私が慎太郎という人物でなかった場合はどうすればいいのだろうか。
私は躊躇しながらも、中の様子を見る事が出来ないかと思い、障子越しにに映る彼女の姿を見つめていた。
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