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「あ…っぐ!」
古泉は、容赦なく振り下ろされた俺の平手をあっさり掴むと、その細く見える身体からは想像もつかないくらい強い力で引き、反転して、俺の体を塀に押しつけた。
押しつけたと言っても、俺がやったような乱暴なものではなく、ふわっとしたもので。
「え…」
てっきり背中くらい打ち付けられるかと思ったのだが。
困惑気味に上を見上げて、後悔した。
そこにあったのは、満面の笑み。
「形勢逆転ですね」
次いで、顔の横に腕を置かれ、足の間に膝を割り入れられて、今度は古泉が俺に覆い被さる形になる。
必然的に、古泉の顔が、普段よりもさらに近くなって、俺の声は、心なしか掠れてしまう。
「ち、か」
「冗談ですよ。ふざけてあんなこと言いません」
焦る俺とは対照的に、涼しい顔で低く囁かれる古泉の声に、騒いでいた俺の顔が、一気に真っ赤になった。
古泉の声が、いつも聞いているものと、違う雰囲気を醸し出しているのもあったのかもしれんが。
なによりも、古泉が口を開く度、耳に触れる息がくすぐったい。
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