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「お前が信じないとか、関係ないから。そもそも事実だし」
あくまでもなだめる気のない様子の男。
「お前は、二番でも三番でも無く、ペット。やりたいときにやれる女で、それ以外の何者でもねぇよ」
頬杖をつき、面倒そうに手をふって見せた。
ヒュンッ
ふった手がゆっくり下がり机に着くか否かといった時、何かが風を切る。
バッチィン!
一瞬頭が真っ白になるほどの衝撃が、男の顔を右へと強引に向かせた。
後からじわり、じわりと頬に痛みが走り、少女に平手を受けた事が理解できる。
男は三秒ほど停止したあとカクカクとした動きで、頭を戻し少女を見あげる。
極上の笑顔で…。
少女はその笑顔と目が合った瞬間、ビクッと体を震わせた。
身体中から汗が吹き出ているのにも関わらず、身体はどんどん温度を低下させていく。
「マリエ、お前、馬鹿なの、かな?」
妙に言葉を区切りながら微笑む男。
「ペットは、飼い主を、噛んじゃ、駄目だろ?」
壊れかけたからくり人形が動くようにカクカクと、ぎこちない動きで席を立った。
口元がだんだんとひきつる。
少女―マリエは恐怖に動けない。
逃げなくては…。
けれども彼の視線に縫い止められたかのように、体が言うことを聞かない。
ドクンッドクンッ
マリエの心臓は大きく跳ねる。
ドクンッドクンッ
男がもう目の前まで迫っていた。
ドクンッドクンッ
殺気が…尋常ではない。
ドクンッドクンッ
殺される…!
恐怖におののき、かろうじて目をきつくつむった。
「っ…」
「俺なんかより良い男さがしな」
耳に聞こえたのは男の優しい声。
「ハル…ッ!」
カランカラン
マリエが振り返った入り口は、ベルが揺れるばかりだった。
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