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紡績工作業
いとこくは、契約料として100zelを支払った。
***
依頼に記載されていた指示に従い、都の外れ、組合と都市共同出資で新設された紡績工場へと顔を出す。
辺国と大陸由来の技術を取り入れて作られたというその工場では、大型の専用服飾ツールを主として使うように設計されていた。
工場に設置されたツールは使用者の身体を包み込む程の大きさ。幾つかの機能を術法結晶などを動力として半自動化し、使用者の管理下にありつつも紡績機に匹敵する大量生産、複数工程の兼任が可能な画期的ツールとして造られた──らしいのだが。
「大量生産は行けるんだけど、使い手の技量が出来上がりにモロ影響されるから、中の人にある程度の服飾の知識とか腕がないと性能活かせないんだわ」
出迎えてくれたのは、でっぷりとした体型の女性。
彼女は軽い調子で話しつつ、工場をのしのしと歩いていく。
「ってことで、宿木の方に依頼を出させてもらいました。探求者なら、製造ツールも結構身近でしょ? 服飾の技量もそこそこあるよね?」
彼女が指す“そこそこ”がどの程度なのかは判らないが、一般的な道具を使って各種紡績をこなせる程度の腕はある。
その答えに女性は満足げに頷いて、
「なら結構。で、あなたの割り当てはこいつね。これで、と……短期の人に込み入ったのを任せるのも問題だから、右腕側で繭から絹布まで仕上げて、左腕側で銀糸作って」
ぽんぽんと目の前、縦横高さがそれぞれ数メートルはあるかという巨大な機械を叩いた。形としては、両腕を前に伸ばした人間の上半身のような形状。その背中部分に、人が入り込めるような空間がある。ここから中に入り、この機械を操作するのだろうが──これを服飾ツールと呼ぶのにはかなりの違和感がある。
(しかし……)
絹だけなら判るが、更に銀糸も。
それを一つの道具で同時に作ることが出来るのか?
「いけるいける。これそういう機械だからね。なんのためにこんなでかいと思ってんの。取り敢えずほら、時間も無いし乗って乗って。さっさとやり方掴んで仕事してもらわないと、こっちもお給金払えないしね」
何だか不安だが、既に契約金を支払った後だ。やるだけやってみるしかない。いとこくは恐る恐る機械の中に入り、外から響く指示の声に従って作業を開始する。
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