序章 造られた英雄

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序章 造られた英雄

『クックック……。 よもや魔王たる儂を打ち倒すモノが現れようとわ…。』 体中の至る所に大量の傷をつくり、更に大きな風穴が空いた腹を抑えながらも、まだ威風堂々と立つ魔王と名乗る人物。 その口から放たれた言葉が示す通り、既に勝敗は決していた。 「………。」 その傍らには自分の体の数倍はある巨大な魔王を、無言で見上げる黒尽くめの青年。 漆黒の髪の隙間から覗く金色の双眼は冷たく魔王を見詰めていた。 『人であって、人ではない体…。 その身に宿す力は儂以上…。 果たして、平和になった世界が容易く受け入れてくれるのか…?』 魔王は口から止め処なく血を垂らしながらも、青年に語りかける。 ここで、これまで無言を貫いていた青年が無感情な口調でゆっくりと口を開いた。 「そんな事…分かっている…。 人々にとって、平和な世界にとって俺の存在は――― 脅威でしかない事なんて。」 そう言い、青年は鈍く輝く金色の眼で魔王を真っ直ぐに見詰める。 そしてその言葉を聞いた魔王は一瞬複雑な表情を見せるが、すぐに一変して高笑いを始めた。 『クハハハハッ! そうか!分かっていながら平和への礎となるか! クックック、アーハッハッハッ! それじゃ儂は一足先にあの世に逝き、お前がこの後どうなるのか、あの世でゆっくり見学させてもらうことにしよう。 さらばだ、小さな英雄よ!』 最後にそう言い残し、魔王はそれから動くことはなかった。 最後の最後まで膝をつくことなく立ったまま絶命したのだ。 青年はそんな魔王に一度深々と頭を下げると、報告を待つ人々の元へと帰るのだった。
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