第一章:記憶の回廊

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古風な刺繍が縫い合わされた黒く染まる上着に触れる。細やかな縫い目に華やかさを感じる派手な紋様。 五畳半の風情のある部屋の窓から風が流れ、鈴の音を控えめに鳴らす。 外を眺めれば黄土色の山脈がすぐそばに映り、長屋の間を牛車が、荷を運び進む車輪の音と、商いの景気の良い客引き文句が聞こえて来るのだ。 ーー今日もこの1日が始まる。 少年は真っ昼間の騒がしい人のにぎわいに起こされて、ぼんやりと上布団の上で座り込み窓をながめる。 こんな不規則で自由な生活感はこの国の特権だと言えるだろう。無造作に布団上に散らばった数々の書物は、あげく床にまで転げ落ちている。 少年は、どっちつかずに開きもっていた本を一段落ついた様に閉じる。 若者らしい藍色の短髪に、中性的でおとなしそうな顔立ち。一見優男と呼ぶに相応しく、特に起伏の無い穏和な表情を浮かべている。 それは彼が、事実穏やかな性格をしていると言うのもあるのだが、若々しい雰囲気が今一つかけていて、変に落ち着いて見える。 彼が居る、風情のある民宿町ファンエルは数少ないこの世界の居住区域であり、発展途上ではあるものの人々が平和に暮らしているのどかな町だ。image=488146827.jpg
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