砂漠のグラウンド

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まだ、誰にも汚されていない朝日の光が教室中に広がっている。 上村雫は、高校に入学してから毎日一番乗りで学校に来ていた。別に部活の朝練習があるわけでも恋人との逢引でもない。 ただ、麦畑に広がるような新鮮な朝日を感じたいから一番乗りしている。冷たい教室の真ん中で朝日を感じて深呼吸し頭の中の血流をスムーズにする。雫の、瞳の中に光が侵入して来てエネルギーを与える。 脈という脈を閃光がゆっくりゆっくりと走り抜ける。そして自分だけの世界に耽る。指先まで光が走り抜けて来たら窓を開けて校門から入って来る生徒達の小さな頭を見つめる。 ここから、朝日と冷たい空気で校門を閉じて自分だけの空間にしたいと雫は願う。 HRが始まるとすぐに雫の好きな時間は破壊されて空虚で退屈なお時間の始まり。雫は、ヘッドホン付きのラジオを出して耳に装着してHRを無視した。 ラジオはいつだって一番早く新しい情報を提供してくれる。新曲が雫の鼓膜から脳細胞の隅々まで刺激してくれる。 担任の森脇和恵の口パクのような話は一限目の授業が始まるまでクドクド続く。多分、森脇は生理中だと雫は予想した。それが的中するように森脇は雫からラジオを没収した。耳からヘッドホンが外れた瞬間に砂漠化した時間が永遠と始まる。ウンザリだ。 でも、ダメだ!狂。今は出て来るな!雫は狂を止められなかった。狂という名前の僕のもう一つの人格が席を立って森脇からラジオを奪い取って「先生、先生の下半身から生命の営みが聞こえて来ますよ。いや、それとも亡霊の泣き声かな。」と狂は言って唾を床に吐いて席に座った。 そして狂は、雫に亡霊の泣き声とは鬼哭と言うと親切に教えてくれた。狂の突然で大胆な行動は周りの生徒から気味悪がられている。だから、ほとんど雫と狂は学校で孤立していた。
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