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普段なら動かない休み時間
普段なら通らない科学室前
有り体な日々の中でのほんの小さな変化が、僕にとっての大きな変化へと繋がる
「ああ、死にたい」
廊下の窓から大きな瞳をつまらなそうに開き、遠くを眺めながら彼女はそう呟いた
「…………え?」
その場に誰も居なかったからかな。僕の間の抜けた声が無駄に響いた
何時もなら誰かの呟きに反応なんてしないのに、不意打ちのような彼女の言葉にそれは無意識に口から洩れた
それが“きっかけ”
「……貴方、誰?」
二つに束ねた淡い栗毛
一本は肩まで、もう一本は膝あたりまで伸びているアンバランスな髪が、振り向き様に揺れた
「あ、え…誰って…」
僕は言葉に詰まった
盗み聞きしてしまったような罪悪感と、感情の見えない彼女の表情に怯んだんだと思う
「あ、言っておくけど本当に死にたいなんて思ってないから。ただこんな世界に生きていると、たまにそう言いたくなるの。それがおかしい?」
高校生活が始まり三ヶ月
やっとクラスの人間の名前と顔が一致してきた今だから知っている
東雲 牡丹(シノノメボタン)
彼女は同じクラスの生徒
でも会話したのはこれが初めてで
「あの…別に『おかしい』なんて思って…」
「名前、言わないつもり?それとも言えないのかしら。貴方って本当に臆病者なのね。一條宗助(イチジョウソウスケ)」
そしてこれが
「弱虫」
二人の始まりだった
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