1.弱虫

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『弱虫』 確かに僕は弱虫だ でもそれに苛立つ時期は終わってしまい、今では弱虫でいることに慣れてしまった 嫌な事ならしない 負けるなら戦わない 傷つくなら接しない 失うなら求めない それが楽だと知って、そういう生き方を選んだ でも…… 「面と向かって言われるとやっぱり悔しいかな」 自室のベッドの上。仰向けで見上げた天井にあの女の子が浮かぶ 「東雲……牡丹」 なんで彼女は僕の名前を知ってたんだろう? 同じクラスだし、そんなに不思議な事じゃないけど、影の薄さには自信がある僕にしてみればちょっとした事件だ 「可愛かったな」 目の惹く容姿で、だから名前も覚えていた 入学当初から彼女は目立っていた。でも未だに友達らしい存在を見たことがない。近寄りがたい雰囲気と冷たい表情が、周囲との壁を作っているように僕には見えた 「…お腹、空いたな」 色恋よりも食欲 ―と、いう訳ではなく、僕にとって恋愛とはリスクだらけのもので、だから《誰かを想う》なんて思考は持ち合わせていない 「今日はコンビニでいいや」 緩慢な体を起こし、僕は真新しい壁掛け時計に目をやる 【18時26分】 体内時計はわりと正確に、夕食時を知らせてくれた
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