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『弱虫』
確かに僕は弱虫だ
でもそれに苛立つ時期は終わってしまい、今では弱虫でいることに慣れてしまった
嫌な事ならしない
負けるなら戦わない
傷つくなら接しない
失うなら求めない
それが楽だと知って、そういう生き方を選んだ
でも……
「面と向かって言われるとやっぱり悔しいかな」
自室のベッドの上。仰向けで見上げた天井にあの女の子が浮かぶ
「東雲……牡丹」
なんで彼女は僕の名前を知ってたんだろう?
同じクラスだし、そんなに不思議な事じゃないけど、影の薄さには自信がある僕にしてみればちょっとした事件だ
「可愛かったな」
目の惹く容姿で、だから名前も覚えていた
入学当初から彼女は目立っていた。でも未だに友達らしい存在を見たことがない。近寄りがたい雰囲気と冷たい表情が、周囲との壁を作っているように僕には見えた
「…お腹、空いたな」
色恋よりも食欲
―と、いう訳ではなく、僕にとって恋愛とはリスクだらけのもので、だから《誰かを想う》なんて思考は持ち合わせていない
「今日はコンビニでいいや」
緩慢な体を起こし、僕は真新しい壁掛け時計に目をやる
【18時26分】
体内時計はわりと正確に、夕食時を知らせてくれた
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