序章 降り積もる雪

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咲き始めて間もない水仙の香りが鼻孔をくすぐる。 「‥‥‥ようやく辿り着きましたか」 歩き続けていた両足を大地に踏み込ませ、安堵の溜め息を吐く。 久方振りに足を踏み入れた故郷は、寂れる訳でもなく賑わう訳でもなく、懐かしい光景を思い出させた。 視界全体に広がる雪化粧。 記憶していたものと変わらない光景に、翔太は一時呆然としていた。 ―――変わっていない。何も。 時から忘れ去られた空間のようだ。 だが、よくよく観察すると雪化粧で飾られた外装が記憶と異なっていることに彼は気づく。 「外装だけですかね、変わっているのは」 思わず苦笑がもれる。 正装の上に黒色のコートを羽織り、同色のマフラーを首に巻くだけの格好をしている翔太は、白い吐息と共に赤くなった両手をポケットの中に入れた。
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