はじまり

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背を向けて歩きだしてしまうその腕を思わず強く掴んでしまった。 振り返ったその人は紛れもなく俺が一番会いたかった人。   「…利、津。」   驚いた表情をしながら俺の名を呼んでくれる。 何もかもが懐かしい。     「愁兄、久しぶり。」     会いたかった。         ずっとずっと。       「利津…。」   不意に愁兄とは違う方向から俺を呼ぶ声が聞こえた。 声のしたほうへ視線を向けると知っている顔の人がもうひとり。     「京ちゃん」   俺のずっと会いたかった人。 愁兄こと勝浦 愁(カチウラ シュウ)と愁兄の親友、高宮 京次郎(タカミヤ キョウジロウ)通称、京ちゃん。                 俺と愁兄が生まれる前、愁兄の両親、勝浦家は俺の住んでいる街へ引っ越してきた。 そのときに何かと世話を焼いていた俺の両親と意気投合して仲良くなったらしい。 愁兄や俺が生まれてからはさらに仲が深まったみたいで、自然と一緒にいる時間が以前より増えていった。 愁兄とはずっと一緒だった。 少年サッカーに入ると言えば俺も入ったし、まあ愁兄が辞めたと同時に俺も辞めたけど。 先に中学にあがった愁兄はサッカーを続けていた。 まだ小学生だった俺とはなかなか遊ぶ時間がなかったけれど、愁兄は俺のために時間を作って会いにきてくれていた。 そして中学生になった俺は、もともと苦手な運動からは逃げて放課後のサッカー部の活動を見るために運動場を見渡せる位置にあった図書室に入り浸っていた。 知らない間に図書室での仕事も押しつけられてはいたけれど、それを差し引いても練習に励んでる愁兄を見れる嬉しさが勝っていた。 過去の記憶が一気に押し寄せてきては懐かしさを感じる。 でも、どれも忘れることなく今も鮮明に覚えている。
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