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また飛ぼうかと問うと、子どもは首を振って草原の先を指さした。
「歩いて行きたいのか?」
子どもは何度も頷き、人間の姿のバケモノの手をとった。
「別に、人混みじゃねえからはぐれないだろ……」
子どもは不安そうにバケモノを見上げ、手を離そうとした。
しかし、その手をバケモノは握り返した。
理由などなかった。その手の小ささをバケモノは知り、その手の暖かさを感じた。
「明日には飛ぶぞ。行き先もねえんだから」
バケモノを見上げる子どもは笑い、バケモノの手を強く掴んだ。
そして、何もない草原を二人で歩く。行き先はない。ただ、正しいと思った方へ進んだ。
「……ああ、昔、こんなところを歩いたな」
バケモノが昔に思いを馳せると、子どもが見上げてきた。
「……追われて、羽根が傷ついて飛べなくなった。草原の草に隠れてどうにかなったけどな」
あれは、人間に追われた時だろうか。バケモノにはもう、昔のことだ。
子どもは嬉しそうにその話を聞いた。あまりに嬉しそうなので、バケモノはたくさんの昔の話をした。
「ずっと北に、氷が浮かぶ海があってな。その上で生活する人もいた」
「火薬に色をつけて、夜の空で爆発させるんだ。音はでかいし眩しいのに、人間は綺麗キレイって騒いでたな」
「一年中、雷が止まない場所もあったな。そこには雷のバケモノがいた。産まれたばかりで力の使い方も知らない餓鬼だったんで、少しコツは教えてやったが、今はどうだろうな」
全ての話を子どもは嬉しそうに聞き、時折、その場所に思いを馳せるように空を見た。
そして、バケモノと子どもは、いつまでも共にいた。
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