失言

2/7

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
たくさんの話をした。 草原を立ち、山を軽く越え、海を渡った。 季節を二つ越え、寒さから逃げるように南に下っていった。 「……寒くねえか?」 背上の子どもは首を振り、バケモノにもらった毛布をすっぽりと被っていた。 「南に来れば暖かいと思ったけどなあ……」 低くどんよりとした雲は、今にも雪を落としそうな表情だった。 長く南に来たが、まだ足りないらしい。 「もうちょっと飛んでみるか。手離すなよ」 子どもが強く背にしがみついたのを感じてから、スピードを上げて南に向かった。 それでも、どんよりとした雲からは逃れられない。その日は諦めて野宿しようと思い、地面に降りた。 「ウサギでもいねえかな……なあ、……え?」 子どもが地面に降りたと思ったが、それは降りたと言うよりも落ちたと言ったほうが正しかった。 「おい、どうした?」 子どもの顔に触れると、異常に熱い。息も荒く、自力で立ち上がることもできないようだった。 「なあ、おい、なあって! ああクソ!」 子どもを優しくくわえ、空に上がった。近くに人里を見つけ、急いで飛ぶ。 バケモノは外傷ならば治せたが、正体のわからない病気は治せなかった。 人里の近くに降り、自分の姿を人間に変えて走った。 「誰か、誰かっ!」 バケモノは叫んだ。今まで、悪態か咆哮しか叫ばなかった喉で。 「誰か、医者はいないか! 頼むからっ……!」 バケモノの声が聞こえたのか、村人らしき人が何人か出てきてバケモノと子どもを見た。 「助けてくれ、こいつを、誰かっ!」 錯乱したように叫ぶバケモノの腕の中で、子どもは何度も口を動かしていた。 誰にも、届かない声で。 .
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加