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たくさんの話をした。
草原を立ち、山を軽く越え、海を渡った。
季節を二つ越え、寒さから逃げるように南に下っていった。
「……寒くねえか?」
背上の子どもは首を振り、バケモノにもらった毛布をすっぽりと被っていた。
「南に来れば暖かいと思ったけどなあ……」
低くどんよりとした雲は、今にも雪を落としそうな表情だった。
長く南に来たが、まだ足りないらしい。
「もうちょっと飛んでみるか。手離すなよ」
子どもが強く背にしがみついたのを感じてから、スピードを上げて南に向かった。
それでも、どんよりとした雲からは逃れられない。その日は諦めて野宿しようと思い、地面に降りた。
「ウサギでもいねえかな……なあ、……え?」
子どもが地面に降りたと思ったが、それは降りたと言うよりも落ちたと言ったほうが正しかった。
「おい、どうした?」
子どもの顔に触れると、異常に熱い。息も荒く、自力で立ち上がることもできないようだった。
「なあ、おい、なあって! ああクソ!」
子どもを優しくくわえ、空に上がった。近くに人里を見つけ、急いで飛ぶ。
バケモノは外傷ならば治せたが、正体のわからない病気は治せなかった。
人里の近くに降り、自分の姿を人間に変えて走った。
「誰か、誰かっ!」
バケモノは叫んだ。今まで、悪態か咆哮しか叫ばなかった喉で。
「誰か、医者はいないか! 頼むからっ……!」
バケモノの声が聞こえたのか、村人らしき人が何人か出てきてバケモノと子どもを見た。
「助けてくれ、こいつを、誰かっ!」
錯乱したように叫ぶバケモノの腕の中で、子どもは何度も口を動かしていた。
誰にも、届かない声で。
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