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雪が降りそうだ。
冷たい空気がバケモノの足にまとわりついた。
背中が不自然に軽いことが嫌で、バケモノは足を急かした。
バケモノを退ける代わりに、子どもは街で保護してもらえることになった。
こんなに弱らせてしまうまで気付かないバケモノより、人の中で暮らすほうが幸せだろう。そう、バケモノは考えた。
街に行く道を歩くと、眼前に大きな岩が見えた。
「……あれか」
バケモノは岩に近付き、それが岩でなく生き物と知る。
「……老人」
バケモノが声をかけると、岩は動き、顔を上げた。
「……なんだ、小さなトカゲか」
それは、巨大な亀だった。
背には苔が生え、幾重にも深く刻まれた皺がその年齢を語る。
「何用かな? 私は餌を待っているんだ」
「その件で。ここで人間を食べるのをやめてほしい」
バケモノが言うと、亀は喉の奥で笑った。
「何? お前は人間に肩入れするのか?」
そう問われ、バケモノの答えはまったく変わっていなかった。
「まさか。あんな生き物、いなくても同じでしょうね」
ただ、変わったことは、
「俺の後ろには、傷つけたくないやつがいる」
バケモノの世界だ。
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