失言

5/7

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
亀は、ゆっくりとバケモノを見た。姿を元の形に変え、バケモノは羽根を広げた。 「……退かねえなら、力ずくで退かす」 「やってみろ、小童」 亀の言葉と同時に地面を蹴り、足を狙い爪を放った。しかし厚い皮に傷は付かず、バケモノは小さく舌打ちをした。 「……この程度か」 亀が落胆したように言い、再び向かって来たバケモノの身体を蹴る。 「がっ、は……っ!」 近くの木に叩きつけられ、バケモノの肺から空気が抜ける。その隙に、亀の足がバケモノを踏みつけた。 「……小童。今逃げるなら見逃してやる。あの村は滅ぼすが」 バケモノは――何故、 何故こうも、守りたいと思うのか。 諦めて逃げればいい。人間など捨てればいい。昔のように、独りで生きればいい。それだけの話だ。 それでも決して逃げたくないのは、 答えは、最初から気付いていた。 「……てめえには、わかんねえだろうよ!」 こんなバケモノですら、笑顔を向けてくれた。 独りだったバケモノを、必要としてくれた。 それだけのことがどれほどの幸福か、誰かにわかってほしいとも思わなかった。 重たい足を持ち上げ、バケモノは亀に呪詛を唱えた。 吹き飛んだ亀の首を狙い、バケモノはもう一度飛ぼうと力を込め、 「なるほど、私の負けだ」 あっさりとした降伏に、かなり拍子抜けた。 「なんだ、まだ戦えるんじゃないのか?」 「こうなると無理だな」 亀は、ひっくり返ってしまっていた。立てないのか、手足をバタつかせている。 「この村には近付かまい。だから、立つのを手伝ってくれないか?」 亀の言葉に呆れながらも、放っておくと死にそうだったので、甲羅を押して立つのを手伝った。 .
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加