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亀は、ゆっくりとバケモノを見た。姿を元の形に変え、バケモノは羽根を広げた。
「……退かねえなら、力ずくで退かす」
「やってみろ、小童」
亀の言葉と同時に地面を蹴り、足を狙い爪を放った。しかし厚い皮に傷は付かず、バケモノは小さく舌打ちをした。
「……この程度か」
亀が落胆したように言い、再び向かって来たバケモノの身体を蹴る。
「がっ、は……っ!」
近くの木に叩きつけられ、バケモノの肺から空気が抜ける。その隙に、亀の足がバケモノを踏みつけた。
「……小童。今逃げるなら見逃してやる。あの村は滅ぼすが」
バケモノは――何故、
何故こうも、守りたいと思うのか。
諦めて逃げればいい。人間など捨てればいい。昔のように、独りで生きればいい。それだけの話だ。
それでも決して逃げたくないのは、
答えは、最初から気付いていた。
「……てめえには、わかんねえだろうよ!」
こんなバケモノですら、笑顔を向けてくれた。
独りだったバケモノを、必要としてくれた。
それだけのことがどれほどの幸福か、誰かにわかってほしいとも思わなかった。
重たい足を持ち上げ、バケモノは亀に呪詛を唱えた。
吹き飛んだ亀の首を狙い、バケモノはもう一度飛ぼうと力を込め、
「なるほど、私の負けだ」
あっさりとした降伏に、かなり拍子抜けた。
「なんだ、まだ戦えるんじゃないのか?」
「こうなると無理だな」
亀は、ひっくり返ってしまっていた。立てないのか、手足をバタつかせている。
「この村には近付かまい。だから、立つのを手伝ってくれないか?」
亀の言葉に呆れながらも、放っておくと死にそうだったので、甲羅を押して立つのを手伝った。
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