失言

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自分の身体を治し、バケモノは少しの影を抱きながら踊る気持ちで村に戻った。 そこで、バケモノを迎えたのは、冷たい視線だった。 「あれが……」 「……バケモノだよ……」 「亀と戦ったって……」 「……バケモノになってた……」 その小さな声で、バケモノはバケモノと知る。 「……おい、あの餓鬼は……」 冷たい視線を見ないふりをして、部屋を貸してくれた家へ急ぐ。 家の前には、子どもの世話をしてくれたおばさんがいた。 「あの餓鬼は!」 バケモノの声に驚き、おばさんは腰を抜かしたようにへたりこんでしまった。 「あいつは、無事なのか!?」 「ひぃ、たっ、食べないでっ!」 立てないまま後ろに逃げたおばさんを見て、バケモノは言葉を無くす。 村を脅かす亀を倒し、約束をしたバケモノを恐れ、逃げ惑った。 これでは、どちらがバケモノだ? 呆然と立ち尽くすバケモノの額に、飛んできた石が当たった。 「でてけ、バケモノ!」 石を投げたのは、まだ小さな子どもだった。 「お前なんてっ、どっか行け、悪いやつ!」 再び石を持った子どもを母親らしき人が抱きしめ、前に父親が斧を持って立った。 ……ああ、守られるのだな。 あの子どもは、そうして無条件で愛されて、 どうして、言葉を持たぬ子どもは誰にも愛されないのだろう。 「……そうだ、でてけバケモノ!」 大人の一人も石を投げ、各々が武器を手に取った。 バケモノは、その感情はよく知っていた。 「……貴様ら、」 それは、怒りだ。 「骨も残らんと思え!」 だが、その感情の本当の名は、哀しみだとバケモノは知らない。 .
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