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バケモノが遠くの湖の畔に着地すると、背から子どもが転がり落ちた。
「なっ、お前……本当に食ってやろう……」
その子どもが両手いっぱいに持っていたものを見て、バケモノは呪詛の言葉を止めた。
それは、バケモノの家にあったものだった。
子どもは、バケモノの家に逃げたのではない。バケモノの荷物を、一つでも多く届けるためだ。
手足に重たい鎖をひきずり、産まれた地から遠く離れたとしても。
「……何だ、お前? 何がしたいんだ?」
バケモノにとって、そんな行為に走る理由がわからない。自分は子どもを食うようなバケモノだ。それを、荷物を運ぶなんて。
だが、子どもは話さずに荷物を置き、バケモノが食べるのを待っているようにしゃがんだ。しゃがむと余計に小さく見え、人と認識する事さえ難しく思えた。
置かれた荷物は、必要なものからいらないものまでそろっていた。軽いのに暖かい毛布や、空のビン。ウサギの毛皮。
「おい、お前は何だ? 答えろよ」
バケモノが子どもをつつくと、簡単に子どもはひっくり返って転んでしまった。
それでも声を上げなかった子どもを見て、バケモノは少し目を細めた。
「言無しか、お前」
ひっくり返った子どもは、小さく頷いた。何故、この子どもが自分の家に置かれていたか、簡単に合点がついた。
「街にも捨てられたのか」
格好は奴隷。さらに言無しならば、バケモノを街の近くから捨てるための生贄にされたのだろう。
「人間ってのは、自分のためなら簡単に違うやつを殺せるんだな」
子どもは何も言わず、バケモノをじいっと見つめていた。湖が反射したように、美しいその碧眼で。
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