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「残念ながら、俺はお前を食う気なんてない。人間なんて臭くて食えたもんじゃない」
子どもの瞳が少し揺れたが、バケモノは気付かなかった。
「どっかに村もあるだろう。川でもたどっていけ」
バケモノなりの礼のつもりで、近くの川を指さした。
「さっさと行け。暗くなると狼が出る。そいつらに食われたいなら話は別だがな」
バケモノに言われた通り立ち上がり、子どもはフラフラと川に向かった。
川を下って行った子どもに目もくれず、バケモノは空を見上げた。夕暮れが、炎のように空を覆っている。
幾百も刻みつけたように、バケモノは孤独だった。
夜になり、バケモノは鹿を一頭捕らえた。
バケモノの身体では大きすぎて鹿では足りないので、身体の形を人間に変えて火で炙って食べていた。
生のままでも食べれるのだが、バケモノは理性を持っている。味はうまいほうが好きだ。
パチパチと炎が破ぜ、暗黒の湖を際立たせていた。子どもが持ってきた香辛料をかけた肉を食べ、明日はどっちに行こうか考える。
その時、狼の遠吠えと、血の匂いが届いた。
誰か人間が森に入ったのか、狼たちは夜更けに狩りをする。
バケモノは人間の形をとっても狼に食われる気はないので、ぼんやりと音と匂いで状況を見ていた。
人間は一人。対して狼は5匹。間は広い。しかし詰められるのも時間の問題だろう。
人間はこちらに走ってくる。しかし、バケモノのところに着く前に捕まるだろう。しかしこの匂い、は……?
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