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匂いの方向を睨み、追いかける狼に敵対心を投げる。バケモノはバケモノという理由を示し、狼を退けた。
やがて、草が揺れ、昼の子どもがバケモノの前に姿を現した。
「なんだ、そんなに食われたいのか」
バケモノが嘲笑うように言ったが、子どもはバケモノにたどり着く前に倒れた。
近寄ってみると、子どもの額から血が流れている。他にも小さい傷が、身体中に残っていた。
近くの村にも、拒絶されたのか。
バケモノはそう考え、子どもを軽く蹴って上を向かせた。
「死ぬか?」
バケモノが問うと、子どもは口を動かした。何も音とならない喉を動かし、子どもは必死で何かを言う。
『ごめんなさい』
言葉を理解した瞬間、バケモノは知らない感情が芽生えた。
その感情はどこまでも静かで、そのくせ強烈にバケモノを動かした。
子どもを持ち上げ、暖かい火の近くに寝かせた。
毛布をかけ、濡らした布で血を拭い、呪詛を唱えて傷を治した。
何故、などという問いは尽きなかった。
何故、自分はこんな人間を救っているのだろう。
何故、自分はこんな子どもをこんなに気にかけるのだろう。
理由がわからないまま、バケモノの夜は更けていった。
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