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次の朝、目覚めた子どもに焼いた肉と採ってきた果物を与えると、嬉しそうに貪った。
よほど空腹だったのか、半分ほど残っていた鹿の肉をほとんど平らげた。
「どれだけ食ってなかったんだ」
顔中を果汁で汚しながら、指を四本立ててみせた。
バケモノは空を仰ぎ、青い空と風を見た。風向きは南南東。なら南に下ろうか。
「俺はあっちに飛ぼうと思ってるんだが、お前はどうする」
バケモノの問いに、子どもは困ったように視線を泳がせた。
「ついて来るか?」
バケモノの問いに、子どもは少し驚いたような顔をしてから、何度も頷いた。
軽い荷造りを終え、バケモノは元の姿となって羽根を広げた。背には、少ない荷物と人間の子ども。
「振り落とされたら死ぬからな!」
バケモノが楽しそうに忠告をし、広大な空に翼を羽ばたかせた。
風は幽かに流れ、バケモノはそれに逆らわずに空を切った。その方角に行くのは初めてだが、別段、困ることもない。
昼には一度地に降り、小さい生き物でも捕らえようかと思っていた。
が、どうやら阻止されそうだった。
背中を子どもが何度も叩いていた。痛くはないが、若干鬱陶しい。
「何だ、餓鬼!」
バケモノが背中を見ながら怒鳴ると、子どもは遠くを指さした。
地平線の向こうは、やがて水平線と変わっていた。
「ああ、海か。あそこには水しかないんだよ。お前が言っても溺れるか食われるだけだな」
だが、背中の上で子どもは目を輝かせていた。青い色は空と海を反射しているようだった。
「行きたいのか」
そう聞くと、子どもは首を横に振った。それならそんな目で見る理由もわからなかった。
それでも、美しいものを見る瞳は、バケモノに止める理由はなかった。
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