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夕暮れになってから地面に降り、バケモノはさっさとウサギを捕まえてきた。
「火はこれで起こすんだよ」
少ない荷物から火打石を取りだし、乾燥した枝に火をつけた。子どもは目をキラキラさせながらそれを見ていた。
爪でウサギの皮を剥がし、近くの川でさっさと内臓を洗う。
「これからどうすっかなー……近くに良い川もないし」
バケモノは独り言を言い、子どもはウサギを必死で食べていた。
この人間をどうするつもりなのか――バケモノは自分に問いかけ、どうするったって。
食べるわけにはいかない。臭くて食べたくない。ならば捨て置けるかと問われ、それもできない自分に少々不思議な気持ちになる。
例えば、子どもが知らぬうちに狼に食われたりしたら、自分はその狼を殺す気がした。狼は食ってもうまくないのに。
ウサギを食べ終えた子どもが小さくなって座り、バケモノが採ってきた果物には手をつけなかった。
「何だ、いらんのか」
自分とて胸焼けをしないために果物を食うことはあったが、好んで食べようとは思わない。
その果物をどうしようかと思った時、子どもが果物と自分を交互に指さした。
「……何だ。食っていいぞ。俺はいらん」
それを聞いて、しばらく沈黙してから、赤い果物を食べ出した。
「……もしかして、俺に遠慮でもしたのか?」
子どもが小さく頷いたので、バケモノはまた知らない感情に襲われた。
こんな感情は知らない。変に熱を持つものを、バケモノは知らない。
子どもが全部食べ終わるのを見てから、子どもに毛布を渡した。
「寝ていろ。明日も飛ぶぞ」
毛布を受け取り、半分だけ使って丸くなった子どもを見て、バケモノは奇妙な感情に戸惑っていた。
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