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視界に映る景色は、矢継ぎ早と変化していく。走っているなら当然の事だ。しかし要は走る事はおろか、今は歩いてすらいない。
それもその筈。黒服のお兄ちゃん達に抱えられ、世界を真横に眺めながら呆然としているからだ。
え、何? なにが起きたの? なんで世界が横に傾いてる?
上履きを手に持ち、鞄を抱えて内履きのまま表に居る。さぞかしその光景は異質なのだろう。通り過ぎる景色には驚きながら道を開けるクラスメートや、恐がって遠巻きになる同じ学舎の学生達がわんさか居た。
「ちょ、何してるの!? 離してよ!」
身体全体に力を込め、必死の抵抗を試みる。しかし、しっかりと掴まれている挙句、大の大人が三人掛かり。そう易々とは抜け出せない。
「すいやせんお嬢、オヤジの命令なんでさぁ。こればっかりは、いくらお嬢の頼みと言えども聞き入れられやせん」
とこれは、30人弱の従者を纏めあげる若頭補佐の声。名前は首藤 姜志郎(すどう きょうしろう)。ガタイが良く、要の父が組を立ち上げた際に拾ってきた人材だ。目は切れ長。頬に刺し傷の痕があり、それを隠すように大きな絆創膏を着けている。
いつもは要の父、双龍よりも要の意見を尊重してくれる立場なのだが……、どうやら最近の行動を見て双龍側に与したらしい。
「む、なら帰りにスーパー寄ってちょうだい。買いたいのがあるから」
ふてくされ、頬を膨らませてお願いをする要。しかしそこは付き合いの長い姜志郎。要の考えを、即座に読み取る。
「わかりやした。そん代わり、トイレに駆け込んで窓から逃げ出さんでくださいね」
「あんたは私専用のエスパーですか!?」
「なんて事だ……」と呟きながらブツブツと文句を垂れる。それを眺めた姜志郎は苦笑して目を閉じ、笑いながら要に告げる。
「やれやれ……すいやせんお嬢。最近は深夜での仕事が多かったもんですから、ちっとばかし居眠りしてしまうかもしれやせん」
それを聞いて、要の顔がパアッと明るくなる。それを見てから、姜志郎は更に続ける。
「但し、寝るのは10分が限界ですから」
と付け加える。10分、短い時間の中で何が出来るか模索する。
まずはあの店に行って、それからこっちの店で。そんな事を考えていたら、いつの間にか車に乗せられていた。
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