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結果を見れば一目瞭然である。
「結局、時間が足りなくて逃げてしまった……」
只今、目下逃走中の要。デパートに入り次第、即座にトイレへ駆け込み窓から脱出したしだいである。
「いや、まあ仕方無いよね。だって10分しか活動出来ないなんて悪夢ですよ」
独り言のように言い訳をつらつら並べ、デパートの裏側から裏道へと逃げ込む。これで追っ手は来ないはず。
そう思っていたのが運の尽きだった。
「お嬢! どこへお出掛けですか!?」
裏道から大通りに出て瞬間、遥か先の信号機辺りから呼ばれ、急ブレーキ。急リターンで走り抜ける。
「10分経ってないのにぃ!!」
ひたすら走る。曲がり角で人にぶつかりそうになると電柱を足場に三角飛びで回避、曲がりきれない時には壁を蹴りつけて急ブレーキ。
しかし、所詮は人間の脚力である。
「お嬢、なんで逃げるんですかい?」
走る要の隣を、並走してる黒いベンツ。助手席からひょっこり顔を出した姜志郎が今は憎い。
「恐るべしエンジン……人間は無力だったのね……」
諦め、その場で地面に手を着く。この場合、驚くべきは幾度の曲がり角をノンストップで走り抜けた運転手の方だと思われるが、今の要に気付く気力は無い。
そんな要が一息吐いた途端に、全身が総毛立つ悪寒に見舞われた。
見てる。何かが見てる。息を殺し、背後まで野獣が迫っているかのような錯覚。殺気を感じさせないそれは、静かに、だが確かに要を見ている。
バッと、後ろを振り返る。しかし何も居ない。居る気配すら無い。しかし、視線を感じるのだ。
「気の……せい?」
睨むように周りを探った瞬間、その悪寒が消える。誰かは分からない。見てたかも確信には至らない。だが、この悪寒は本物だ。
「ほら行きますよお嬢」
なんて考えていたら、姜志郎に肩を掴まれて車に乗せられていた。物思いに耽ってたせいで、気付かなかった。
「さようなら私のお休み……」
涙を流し、過ぎ行くデパートを怨めしそうに眺めながらベンツは走っていった。
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「あれが、今の器か……可愛いお嬢さんだ」
「だが侮るなよ? なんてったって、私の妹だからな」
「お前、実はシスコンか?」
「なんでもコンプレックスで片付けるのは反対だな」
デパートの少し先に、その影はあった。数は二つ。殺気を放った張本人達の、静かな観察である。
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