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学校への通学路。何ら変わり映えのしない朝。鳥達が戯れ、通学途中の生徒達で賑わいを見せていた。
向かう先は学校で、この辺りだと学校は一つしかない。青海高等学園、初等部から中等部。高等部までエスカレーター式で、全て揃っている文字通りマンモス校だ。
そんな中、後ろから聞き慣れた自分を呼ぶ声が響き渡る。恥ずかしい事この上ないが、これも毎朝の出来事なので流石に慣れた。
「おーい!! かーなーめー!!」
脳天気極まりない。よくも大観衆の目の前で叫べるものだ。と、少しイラつきを覚え、不機嫌そうに要と呼ばれた少女が振り返る。
――叫ばれた女子が私。麒島 要(きじま かなめ)、青海高等学園3年、成績優秀スポーツ万能、料理裁縫まで器用にこなす一介の女子高生である。
それを叫んでいた少女も間近で見るが、これも見慣れた光景なのだろう。意に介さず普通に喋り掛けた。
「おーはよ、いつも通りの不機嫌顔は相変わらずね。元気そうで何より何より。さっ、行こうか♪」
これまた脳天気に笑い飛ばし、尚且つ自分のペースに持っていく。それを要は溜め息一つ吐いて聞き返す。
あくまで穏便に。あくまで平静を装って。少し頭が痛いのであろうこめかみの部分を指で押さえながら、
「沙頼……、あんた毎朝同じ挨拶で疲れない?」
と訊ねた。それを聞いたのが過ちだった。はてと首を傾げ、一体何の話だろうと言わんばかりの態度。一見して芝居がかってるようでいて、沙頼は実は天然なのだ。
肩を落とし、落胆する。何を言った所で、話を右から左へ受け流すだろうと長年の付き合いで感じ取った。
諦めがついた途端、辺りに青海学園の予鈴が鳴り響く。それに驚き、辺りを見回すと既に生徒達の姿は無かった。
閉められる校門、沙頼と呼ばれる少女の相手をしたのが間違いだったと後悔する。
「あーあ、遅刻だね。二人仲良く」
笑いながら要を見る沙頼、当の要はと言うと、
「あ…、あんまりだあー!!」
この世の最後みたいな叫びを上げ、力無く地面に両手を着いた。
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