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古臭い鐘の音が辺りに鳴り響き、四時限目も終了した事が学校全体に伝わった。途端に教室が活気に満ちあふれる。先程までペンとチョークの音しか聞こえなかった教室からは、昼御飯のチャイムの音と共に飢えた餓鬼(がき)達が椅子をはねのけ立ち上がった。
そんな購買部で戦争が繰り広げられている中、教室で机と友達になっている女学生が居た。
「死んだ……、死にましたさ……はい…」
麒島 要である。机にへばり付き、体力回復を狙っているのだろう。
「なんでこんなに悪い事って重なるのだろうか……、まさか遅刻した日に抜き打ちテストとは……全く、冗談じゃないよ」
一人で椅子に座りながら居ない担任に悪態を吐くその姿は、さながらモルモットが科学者達を呪っているかのようだった。
自分の運の無さに嘆いていると、後ろに忍び寄る何者かの影。それに気付くと、シャーペンを強く握りしめ、勢いよく振り返る。
敵ならば、問答無用でその喉笛にシャーペンを突き刺してやる勢い。だが、目の前の人物は明らかに敵ではなかった。
「なーに死んでんのよ、ほら起きなさいかーなめー」
沙頼が目の前でニヤニヤと立っているのを確認し、慌ててシャーペンを引っ込める。
「あんたは……、黙って背後に立つの止めない? ていうか止めてよね沙頼、びっくりするじゃん」
溜め息混じりで、沙頼という少女に不満をぶつける。それをこれまた能天気な笑顔で軽くいなし、話を逸らす。
芦真 沙頼。朝も一緒に居たが、要のクラスメートにして唯一の親友。性格は温厚で優しいが悪戯が好きという、極めて普通の女子高生だ。
ふと沙頼の手を見ると、袋詰めにされたパンを要の眼前でヒラヒラとさせている。
「お昼、一緒に食べない?」
ニコニコといつも通りの笑顔で、いつもと同じセリフを言う沙頼。そして要の返事もいつもと同じセリフ。
「私はパス、これから早退するから適当に先生に話付けといて」
と、机に突っ伏しながらバイバイと手を振る。突き放すような言い方だが、沙頼には意味が通じた。
「はいはい、単位だけはしっかり取らないと留年だよ?」
笑いながら話す沙頼、でも正直洒落になっていなかった。事実、今の要の単位はギリギリ、下手したら平均点以下である。エスカレーターなんだから、その辺もどうにかしてもらいたいなと考える。
だが、止められない。止める事はできないのだった。
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