二重人格

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 ☆★☆★☆  時刻はお昼過ぎ。先ほど学校を早退した筈の要が家にも帰らず、誰も居ない公園でゆっくりとくつろいで居た。  着ているのは制服、持ち物は鞄という学校を出たときと全く同じ格好である。  否、一カ所だけ違う点がある。肩に紐で括り付け、布地の細長い袋を担いでいた。長さはおよそ要より少しだけ小さい130cm代、竹刀にしては長細い物だった。  と、要がブランコを降りると同時に一人。スーツ姿にアタッシュケースなんて物を持っているサラリーマン風の男が、ふらりふらりとまるで酔っているかのように顔を下に向け、さ迷いながら公園に入って来る。  男は要の近くまで来ると、ダラリと下げていた頭を起こし要を見る。  口からはだらしなく涎が垂れ、目が虚ろになっているのを見る限り、とても正気とは思えなかった。  男は要に気付いているのかいないのか、要の周りをフラフラと動き出した。それを要は溜め息を吐きながら目を閉じ、肩に掛けていた袋に手を伸ばす。  袋を開け、中から取り出したのは二本の剣だった。一本は黒く、もう一本は白い。だがこの剣は色が違うだけで、他の全ては鏡のように精巧に同じ作りで出来ていた  目を閉じたまま、男の出方を見る。男はどうか知らないが、要は既に臨戦態勢に入っていた。  ふと、男が要の方を見やる。その手にした物を見た途端、突如として襲いかかる。まるで拒否をしているかのような反応。そう感じるかのように突如の出来事だった。  要の首目掛け、その人外のように鋭く尖った牙を押し当てようと倒れ掛けてくる。  それに合わせるかのように、要は目を見開いた。  一瞬の静寂、男が横を通り過ぎたようにしか見えない。そうとしか見えないほど、戦闘という戦闘は一瞬だった。  ずるりと男の肩から脇腹の部分に掛け、体が文字通りずれていく。だがその体からは鮮血など飛び散らず、綺麗なままその身を地面へと倒れ伏した。  ヒュン。風切り音と共に刀を振るうと、刀身に付着した血痕が音を立てて地面に飛び散った。カキンという音と共に刀を鞘に収め、目を開き冷徹な眼差しで敵を見下す。  その目に情など無く、あるのはただ無機質なほどの視線と、辺りを凍り付かせる殺気だけであった。 「その程度で私から逃げようなどとは……、笑止千万。次の転生を待ちなさい。最も……、父は人の姿にはさせないでしょうけどね」
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