二重人格

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 ☆★☆★☆  時刻は辺りも暗くなり、電灯に灯りが点き始めた頃。夜と呼ぶ事が出来る時間帯になる。暗がりの中で面倒臭そうに家路に着く要は、フラフラと蛇行して歩いていた。  家との距離が、残り僅かという所で更に陰鬱になってくる。家に帰ったら帰ったで、彼女には疲れるイベントが盛り沢山だからだ。  馬鹿でかい屋敷の前に立ち、馬鹿でかい門の前で深呼吸をする。自分の家に深呼吸をしなければ入れないなどというしきたりは、一応無いのだが。  存分に空気を吸い込み、少し吐いて家の門を開けて中に入る。 「ただーいまー………、はあ……」  門開ける。目の前から玄関の入り口まで、ビッシリと決めた黒い服を着た兄ちゃん達が並んで立っていた。 「おかえりなさいませお嬢、さささ! こちらへ」  赤い絨毯が敷かれ、玄関までの赤い道が出来上がる。どこの大貴族だろうか、そんな事を思わせるかのような出迎えである。 「だから止めてってば! 何度言ったらわかるのよ……。それから次にお嬢って言ったら本気で怒るからね」  諦め半分で赤い絨毯の上を、溜め息を尽きながら歩く姿はどこか悲惨だった。  後ろの従者達を横目に見ながら玄関を開け、余所見をしながら器用に敷居を跨いで中に入る。 片足を入れた途端に、辺りに良く響く声が聞こえてきた。他の誰でもない。要の父、麒島 漕龍の良く通る声を、耳元で聞いてしまったのがマズかったらしい。  いまだにキンキンしてる耳を押さえ、声がした家の方を見ると更に驚く事態が見えた。  抱きついてる。思い切り娘に抱きついているあられもない父の姿を、この目で見てしまった。 「え、わ!? ちょっと!? 離れてよお父さん……!!」  精一杯腕に力を込め、父を引き剥がそうと努力する。が、相手は仮にも男。なかなか離れる事はなかった。  次第にエスカレートしてくる父親の変な愛情表現も、要の悩みの一つだった。最近はこうして抱き付いてきて、その後は何時も決まって、 「んー……、我が娘ながら良くここまで育ってくれた………」  と、お腹と胸の間を頬ずりしながら言うのだった。それは今回も例外ではなく、何時もと変わらずに頬ずりをしてきた。 「ちょ……っと、離れて………!! 離れて……って、言ってるでしょ!!」  何時もの事なので、従者も慣れたのか。その手に鉄製のハリセンを持つと、黙って要に渡すのだった。
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