二重人格

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 ☆★☆★☆  黙々と進む晩御飯。目の前にはイタズラが過ぎて要に怒られ、頬に手形と頭にタンコブを付けた父と、向かい側に何も言わずひたすら黙々と食べる要の姿があった。 「あのー、要ちゃん? おかわり宜しいでしょうか?」  なんとも腰が低い父親か。最後の辺りは声が小さ過ぎて良く聞き取れなかった。無理も無い、よく見ると頬の手形だけでなく、顔のそこら中が青くなっていたりするからだ。  ジロっと父親を睨みつけ、無言でお茶碗を取りご飯を盛る。そしてまた無言でお茶碗を返し再び食べ始める。  この針のムシロが既に三十分以上経過している事は、最早言うまでもないだろう。  要のご飯が無くなる。お茶碗を置いてその上に箸を並べて置き、手を合わせる。 「ご馳走さま」  これが漕龍の悪戯の後に出た二言目。一言目はいただきます。会話をしている筈などなかった。  流石にやりすぎたかと、今回『は』悔やむ漕龍。前回までならば叩かれるだけで終わっていたが、今回は無口になるという特典付き。父親として娘と話せないのが何より悲しかった。 「それでお父さん」  と、今日初めてのまともな会話。先程まで撃沈していた漕龍が、顔を輝かせ起き上がる。ようやく言葉のキャッチボールが出来ると思ったのだろう。尻尾を振る犬のようにその顔は笑っていた。 「な、何かな要ちゃん!?」  凄い勢いでテンションが上がったらしく、微妙に声が上擦っていた。父親の完敗なのは、誰がどう見ても分かる事。 「みんなにお嬢は止めてって言っといてくんない?」  内容は、父と娘ではなく主従関係による命令のようなものだった。  がくりと落ちる肩。会話のキャッチボールと思っていたのは、デッドボールありの地獄絵図だったのだから気の落ちようは半端ではない。 「は……ははははは、みんな要ちゃんが好きなんだよ」  転んでもタダでは起き上がらない、服を着た変態こと麒島漕龍が屁理屈を言い始める。  それを聞いた要は眉を少し吊り上げ、悪魔のような笑いをしだす。まるで獲物を見つけた虎。それもかなり腹を空かせた気性の荒い状態といった所だろう。 「お、お父さんに凄んでもー、意味無いぞー?」  微妙に顔をひきつらせて笑う父親。折れる寸前という所だろうが、そう簡単には諦めない男だ。  しかしそれを見た要はもう諦め半分、呆れ半分のようだ。腰に手を当て溜め息を吐いて打開策を考え始める。
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