決行-要VS監視カメラ-

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 ☆★☆★☆  穏やかな午後の授業。黒板に書き綴るチョークの音と、時計の針が落ちる音だけが辺りに響く。静かで穏やかな風景。そして内心穏やかになど出来ないといった顔の、約一名を除いたクラス全員と担任。  その原因は朝から現在六時限目に掛けて行われた、要による壮大なふて寝で授業ボイコット風景だった。  何が原因でああなったか、彼らクラスメートや担任が預かり知る所ではない。ただ分かるのは、強烈に居心地が悪いという事だった。肩身が狭いとか、そんな次元ではない。  授業終了のチャイムが鳴り響く。書くのを止め、生徒に振り返る担任。流れる冷や汗が目に見えて分かる。無論、彼ら要のクラスメートも例外ではない。  ごくりと飲まれる生唾。緊張した面々が顔で語る。「本当に大丈夫なのだろうか」、その言葉が頭に響いて鳴り止まない。  と、意を決して担任が口を開く。クラスメートの突き刺さる視線の中、この行動は後に彼に大英雄の二つ名を与えた。 「本日の授業はこれで終了、各々まっすぐ家へ帰り、予習復習を欠かさず行う事。以上、解散しなさい」  その言葉が響くや否や、要がむくりと上半身を起こし、横に掛けてある鞄を手に取り教室を後にした。この時の教室の盛り上がりは、伝説となって語り継がれたのはまた別のお話しである。  鞄を肩に掛け、昇降口を目指す要。ざわざわと煩い教室をすり抜け、階段に向かう。階段に着くためには、職員室の目の前を通って行かなければならない。  と、担任の先生と顔を合わせ、立ち止まる。  気まずい沈黙。お互いに目を逸らさないが、教師の顔色が凄い勢いで変わっていく。白くなったり青くなったり、赤くならないのが不思議なくらいだった。 「先生」  先に沈黙を破ったのは要。無愛想な顔でいきなり『先生』と呼ばれたらビビる。この先生も例外ではなく、焦りを浮かべて反応する。 「な、何かな麒島さん」  少しどもった声が印象的だったが、構わず要が続ける。 「さようなら」 「え? あ、はい。さようなら」  拍子抜けしたのか、掛けてたメガネが少しずり落ちていた。  要は満足したのか、再び昇降口へと向かって歩いていった。その後ろ姿をボーッと眺めながら、不意に我に帰って職員室に入っていった。 「たまには、良い印象を与えとかないとね」  と、靴を持った瞬間。体から重力が消えたように感じた。
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