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‐クリスside‐
どうして……。
どうして、コイツはここまでしてくれるんだ。
昨日初めて出会った奴に、こんなにも親切にしてくれるんだ。
真っ直ぐ前を見て、何の確信もないのに、ハッキリとモノを言う。
ずっと、隠すしか出来ないって思ってた。
自分の気持ち、なかった事にするしかないって思ってた。
好きなのに……
リズだけしか考えられないのに……
想いが届かないなんて……
苦しい。
誰か、この薄暗い水の底から救い出して……。
必死に手を伸ばしても誰も掴んでくれない。
仕方ないんだ。
そう思うしか出来ない自分が悔しい。
殺したい。
こんな自分を殺したい。
本当は、兄様の婚約者候補を決めるこの勝負に協力なんかしたくなかった。
だけど、するしかないんだ。
リズと兄様がくっつくかもしれないこんな勝負に……。
もう嫌だ。
何もしたくない。
そんな絶望の淵に立っていた俺を、コイツはいとも簡単に救い出してくれた。
伸ばした手を、掴んでくれた。
俺の気持ちを理解してくれた。
嬉しかった。
ただ、嬉しかったんだ……。
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