Prologue

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ふと立ち止まり、彼は夜空を見上げた。満点の星空は間もなく夜明けを迎えるようだ。何をするでもなく、しばらくの間夜空を眺めていた彼は不意に視線を鋭くさせた。その視線の先にあるのは浮遊島アスガルド。魔力に満ちたその島は夜でも微かに光を放っていた。視線をそらしぐっと強く目を閉じる。握りしめられた拳が震える。 もう長い時間が経ってしまった。あれから力を付け、機を窺う内に、時は流れた。……彼女はもう限界だろう。 震える拳の間から紅い雫が滴り落ちる。彼の連れている真っ白な狼がその手を舐めた。視線を降ろせば目が合った。その案ずるような、窘めるような視線に、彼はほんの少し、力を抜いて狼の頭を撫でてやる。そうだ。焦ってはならない。彼は懐から小さな鳥の置物を取り出した。金属の糸で編まれたそれは、胴体が金、翼が銀、嘴と足が銅で出来ていた。まるで生きているかのように精巧なそれを、彼は愛おしそうに撫でると再び懐にしまった。 「行こうかフェンリル」 狼を呼び寄せると彼は歩きだした。
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