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「で、どこ行ってたんだよ」
男が軽い調子でロキに聞いた。
「ビフレストや」
ロキではない。その声はテーブルの下から聞こえた。男がテーブルの下を覗くと、
「久しぶりやなトール」
大きな白い狼がいた。
「フェンか!お前も元気かよ」
「おう、この通りピンシャンしとるでぇ」
男、いやトールは何事もないかのようにそのまま狼と会話を続ける。テーブルの下を覗きこむような格好で喋っているので、かなり奇妙な光景だ。
「トール」
「ん?いでっ」
頭を上げようとしたトールは思い切りテーブルに後頭部を打ち付けた。ゴツッ、ととても痛そうな音がした。
「~~~っつう……」
その場で悶えるトールをよそにロキは淡々と告げた。
「お前、見られてるぞ」
は? とトールが周りを見渡すと、目が合ったウェイトレスにさっと目を逸らされた。
「え?」
「周りから見ればお前が一人でテーブルの下に向かって喋っているように見えたんだろうな」
そんなことをしれっと話すロキ。その言葉に彼がばっとテーブルの下を見ると、悠々と寝そべる狼。彼の方をみてニヤリと笑う。
この狼、人語を話すことからもわかるようにただの狼ではない。この店に入る時、騒動が起きないよう自分の姿が見えないように術を掛けていたのだ。とは言え自分から話しかけた場合、相手には存在がわかるようになっている。
「このっ……」
「よかったな。お前もこれで変人の仲間入りだ」
彼は狼に文句を言いかけたが、ロキのその言葉に撃沈した。
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