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男は、怒りを無理矢理作った笑顔に押し込めて、ゆっくり近づいてきた。
「そうか莉奈、テディベアは気に入らなかったんだね…また、新しいぬいぐるみをあげるね。」
盗聴器付きのぬいぐるみなんて要らない、そう怒鳴りたかったが、相手を極力刺激しない方が得策と考えた。
「あの…貴方は、うちの店によく来て下さるお客様ですよね?私に何か、御用ですか?」
じり、じりと後退りしながら問い掛ける。
「洋介だ。俺が、ヨウ君だよ。」
一瞬、何を言われているのかわからなかったが、相手は自己紹介をしているのだと瞬き三回のうちに気付いた。
「洋介、さん…?」
「そう。いつもの呼び方で言って?」
…私がヨウ君、といつも呼んでいるのは目の前の男ではなく、弟の事であったが、たまたま同じ呼称だったらしい。
仲のいい私達姉弟は毎週の様にお互いの近況連絡を携帯でしていたので、男はそれを一ヶ月前から聞いていたのだろう。
「莉奈、もう怖くないからね」
もう、後ろは壁だった。
逃げ場を失い、途方に暮れる。
男とスタンガンが近づいてくる。
もう駄目ーっっ!!!
目をぎゅっと潰った。
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