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「薮田先生!」
乱暴に扉が開かれた音と、若い女性の怒号が同時に聞こえたのは、なんでもない、月曜の昼下がりのことである。
薮田はその威勢に圧され、本能的に音の方角へと顔を向けた。
全く誰だというのだ、毎日の日課であるスプラッタ1人祭りの邪魔をするのは。
ジェイソンの本領発揮はここからだというのに。
大儀そうな足取りで向かった出入口に立っているのは薮田とそう年の変わらない、ナースであった。
看護婦というのは、よく「白衣の天使」などと称えられること請け合いである。
だがいくら院内で美人と評判でも、息を切らし、鬼のような形相をした今の彼女は残念ながら天使なんて言葉からほど遠い。
「いきなりどうしたんだい、チャッキーくん。随分と酷い顔をしているけど、ひょっとしてジェイソンの仕業かい?それとも生まれつき?元から?」
「初っぱなから失礼な人ですね、あなた。ホッケーマスクに興奮してる場合ですか。後、私の名前はチャッキーではありません、千夜希です」
ナース、チャッキーもとい自永村千夜希は眉間のシワを深くした。
端正な容姿を持つ彼女だか、先程の件も然り、せっかくの美貌を損なわせる言動が多い。
「似たようなものじゃないか。チャッキーくん、ジェイソンは素晴らしいよ。あのチェーンソー裁き、我々医師も見習うべきだと思わないかい?」
うっとりとした表情で、薮田は空を仰いだ。
「『13日の日曜日』は、そんな映画じゃありません。それより、今大変なことになってるんですよこのヤブ医者が、さっさとシネ」
「君、立派な殺人鬼になれるよ。このぼくが言うんだから間違いない」
「昏睡状態にあった、御形正義くんが姿を暗ましてしまったんです」
「会話のキャッチボールは大事だよ」
「他に言うことあるだろ」
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