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早朝のとある公園。
日の出が早い時間とはいえ、まだ太陽が顔を出していない時間帯。
ここにいるのは、いわゆる『ホームレス』と言われる人たちのみ。
各々、段ボールや新聞紙を身体に巻き付け、睡眠を取っていた。
その中へ、身体にフィットした真っ赤なスーツを着た女が一人、高らかにヒールを鳴らしながら入ってきた。
かなり場違いなその姿に、公園の入り口に近い、眠りの浅い一人の男はすぐに目を覚まし、飛び起きた。
「おまえは……だれだ」
誰何(すいか)の声に女はすらりと伸びた足を止める。
しかし、振り返らない。
「こんな時間に一人、ここに足を踏み入れてきたということは、それ相応の覚悟があると見たが……いいのか?」
ぼろぼろの服を着てはいるが、その瞳は思った以上に鋭く光っている。
背中を向けている女にはそれは分からない。
しかし女は、視線に気がついたのかうつむく。
「今すぐ、ここを立ち去れば見逃してやろう」
その言葉に、女は肩を揺らしている。
男は怖くて震えているのだろうと思ったのだが……次の瞬間。
女は顔を上げ、いきなり笑い出したのだ。
「あーっはっはっは、どうしてあなたたちはそこまで身の程知らずなんでしょ。どこに行っても同じセリフで、聞き飽きたわ」
静かな公園内に女の笑い声が耳障りなほど、響く。
それまで眠っていたホームレスたちはその声に目を覚まし、一斉に女を取り囲んだ。
「ほう、大した度胸だな、女」
最初に声をかけた男は声を荒げる。女はそれを聞き、さらに笑っている。
「いいわよ、まとめてかかってきなさい」
女はそういうと、長い髪を振り払いながら、男へと振り返る。
「本気出してかかってこないと、後悔するわよ」
不敵な笑みを浮かべている女を見て、男たちは馬鹿にしたように笑う。
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