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その写真はコーティングされてあって、その上に雪が落ちても、水滴となって流れてしまうだけで写真そのものには何も影響がないようになっていた。
写っているのは四人。
今と大して変わらない、旅に出る前の彼と、長い前髪を避けるためつばを後ろにしてかぶった黄色い帽子の少年、そして、自分の子供の後ろに立つ、二人の女性。皆、木造の家の前で笑っていた。
その笑顔を、彼は寒さに震えることもなく、自らを試験するように見つめ続ける。
と、彼の背後にあった洞窟から、心配顔のピカチュウが現れて少年の方へと走ってきた。小さい体にも重さがあるのだ、ということを証明するかのように、白い雪に足跡がつく。だが、それはすぐに、後から降ってきた雪に消されてしまった。
ピカチュウは少年のそばまでやってきたかと思うと、ひょいととびあがり少年の肩に乗った。
少年は少し顔を上げ、それから左肩にいるピカチュウを見る。そして、紫色のくちびるをまげて、わずかな笑みを作った。
写真をズボンのポケットの中に入れ、その手でピカチュウをなでる。
「心配しなくていいよ。ただ」
少しかすれた低い声で言って、顔をそむける。
一段と冷たい風が吹く。「ただ、ちょっとだけ、羨ましいなって思っただけだから」
それでもピカチュウは動かなかった。
彼はもう一度ピカチュウをなでて、頼むように言う。
「ここは寒いよ」
少年とピカチュウは、静かに見つめあった。
最初に目をそらしたのはピカチュウで、悲しげな表情で下をむき、けれどそれ以上は反抗するそぶりもなく、肩から下りる。
足跡をつけながら洞窟へと消えていくピカチュウの姿を、彼はどこかほっとした顔で見送った。
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