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『その願いの根にある思いに気付く事を祈る』
悲しそうに顔を少しだけ歪めたその人の言葉は、やはり叶わない事を示しているようだ。
根にある思い?
思いなんてない。私はただ、またあの優しい笑顔が見れるなら、あの優しい声で私を呼んでくれるのなら……何もいらない。
『行くがよい。汝が必要とするモノのある所へ』
すっと腕を上げ、指を私に向ける。
「行く……?」
行くって何処へ?
疑問を呟くと、背中に受けていた風が不意に乱れた。
吹き乱れる風は鳴り響いていた鈴の音が一際、大きくなったと同時に一纏まりになって私にぶつかる。
「うわっ…!」
強い力に体がぐらつき、後ろに傾く。
やばい!
階段には手すりなどなく、バランスを崩した体を支える物は無い。
ここから落ちれば、まず助からない事は一瞬で理解する。
『鈴華の者よ…我は汝の近くで見守っている』
忘れるでないぞ、その言葉が最後に聞こえた。
既にその人は私の視界から消えて、代わりにみえるのは酷く澄みきった浅葱色の空。
足は階段から離れてしまい、体は宙に浮く中あまりに綺麗な空に思わず手を伸ばす。
そして、意識は途切れた。
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