第1話 鈴厘神社

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……… ……………… ……………………… なんだろ? 体がふわふわする。 私、死んだのかな? 頭の中は疑問ばかり。 幽霊が死んだ事が分からず出てくる話を思い出して、こんな感じなのかと思う。 不思議と恐怖感は無く、変に冷静だった。 何か見たい。見て状況を確認したい、そんな衝動に駈られる。 階段から落ちたって事は頭を打った確率が高いよね… 血が流れ出ている自分の死体を想像すると怖くなり、ゆっくりと瞼を上げる。 「あれ?」 開いたはずの視界に光りや色はなく、目を開ける前と変わらない真っ黒な暗闇。 あれ、おかしいな…… 川とか花畑とかなら解り易いのに。 死後の世界とはこんなに何も無いのか? 何か触れないかな、と思い手を伸ばすと暗闇の中、見慣れた腕が視界に入る。 「自分は見えるんだ…」 見えた事で少しだけ安心した。私は確かにここに在るのだ。 上下左右が全く分からない中、辺りを見渡しても意味はなかった。 手を伸ばしても自分以外に触れる物も見える物も無く、虚しく宙を掻くばかり。 浮いている体を動かすと、腰の辺りに何かが当たる。 「あ…鞄」 確かめると、違和感の正体は肩に掛けていた私の焦茶色の鞄だった。 そこで新たな疑問が生まれる。 「死んでも鞄は持っていけるの?」 そんな話は聞いた事が無い。少なくとも私は。 服がそのままな感じで鞄もかな? 私は本当に死んだのかな?  
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