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今は3月中旬の昼下がり。
「ちょっと寒いなぁ」
春とは言えど、まだ風は冷たいのに油断して薄着してしまった。
カーディガンでも羽織れば良かったかなと、つい後悔に思考を巡らしてしまう。
「那智ぃ。話し聞いてるぅ?」
コンビニからの帰り道、隣でむくれているのは友達の紗季。
くりっとした目は猫のような印象を与え、ふわふわの赤銅色をした髪は小さい顔を引き立てる。更に小柄な彼女は黙っていれば、どこからどう見ても可愛い。
黙っていれば。
「聞いてるよ。斎藤一の話しでしょ?」
「斎藤一さん!呼び捨てはあかんよ!」
さんを強調して怒る紗季。
そう、彼女は新撰組をこよなく愛している。特に斎藤一さんを。
一度新撰組の話しを始めると、なかなか止まらない。今だってコンビニに置いている雑誌から新撰組の文字を見てからずっと語っている。今日は多分ずっとこのままだ。
「そう言えば長州の人はどうなったの?」
ちょっと前に長州組がどうたらと言っていた。
ふと思い出し尋ねると……
「それ言ったらあかん!」
「わぁっ!」
どん、と突き飛ばされた。
危ない危ないあと少しで溝に落ちるところだったよ。
「そりゃ本命は斎藤さんやけどっ高杉さんも素敵過ぎるわぁ」
文句を言おうと振り返るが、一人でもじもじとしているとても痛い姿に何とも言えなってしまう。
そんな彼女の最近の悩み事は長州に浮気している事らしい。
新撰組の斎藤さんと長州の高杉さんの間で勝手に板挟みになっている。
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