第1話 鈴厘神社

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「有り難うねぇ。あとちょっとで家やから」 それからお婆さんの歩調に合わせゆっくりと歩いた。 道中はお婆さんとの会話に夢中になったけど、まあそれほど経ってはいないとは思う。 お婆さんは藤色の着物を着ていて上品な雰囲気があるが、話すと気さくな人で豆知識、所謂お婆ちゃんの知恵袋を色々と教えてくれた。 「いえいえ、私も良い事教えて貰いました」 「こんな話でええなら、いくらでもするわ」 ふふ、と笑うお婆さんは私のお婆ちゃんの雰囲気に似ているなぁ。 ほのぼのとした空気の中、不意にお婆さんは足を止めた。 「ここまででええよ。ほんま有り難うねぇ」 お婆さんはそう言うが、辺りに家らしい建物は無い。あるのは古い大きな神社への階段だけなのに。 「お家まで運びますよ。遠慮しないで下さい」 途中で投げ出すのは嫌だし、多少帰りが遅くなっても紗季は怒らない。今頃、私の部屋に置きっぱなしの幕末関係の雑誌を読んでいるだろうし。 「そやけど、この階段はしんどいやろ?」 そう言って後ろにある神社への階段を見た。 「お婆さん、神社の方なんですか?」 もしかしてと思い尋ねるとお婆さんはそうなんよ、と苦笑いする。 ここの階段は町でも段数の多い事で有名で、それは裕に二百段は超えているだろう程。 「尚更、手伝います!」 手すりもなく長い階段は登るだけでも大変なのに、重い荷物を持ちながらは最早危ない。 「やけど……」 この階段の大変さをよく知ってるお婆さんは、どうも気が引けるらしい。 「大丈夫ですよ。いい運動です!」  
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