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「有り難うねぇ。あとちょっとで家やから」
それからお婆さんの歩調に合わせゆっくりと歩いた。
道中はお婆さんとの会話に夢中になったけど、まあそれほど経ってはいないとは思う。
お婆さんは藤色の着物を着ていて上品な雰囲気があるが、話すと気さくな人で豆知識、所謂お婆ちゃんの知恵袋を色々と教えてくれた。
「いえいえ、私も良い事教えて貰いました」
「こんな話でええなら、いくらでもするわ」
ふふ、と笑うお婆さんは私のお婆ちゃんの雰囲気に似ているなぁ。
ほのぼのとした空気の中、不意にお婆さんは足を止めた。
「ここまででええよ。ほんま有り難うねぇ」
お婆さんはそう言うが、辺りに家らしい建物は無い。あるのは古い大きな神社への階段だけなのに。
「お家まで運びますよ。遠慮しないで下さい」
途中で投げ出すのは嫌だし、多少帰りが遅くなっても紗季は怒らない。今頃、私の部屋に置きっぱなしの幕末関係の雑誌を読んでいるだろうし。
「そやけど、この階段はしんどいやろ?」
そう言って後ろにある神社への階段を見た。
「お婆さん、神社の方なんですか?」
もしかしてと思い尋ねるとお婆さんはそうなんよ、と苦笑いする。
ここの階段は町でも段数の多い事で有名で、それは裕に二百段は超えているだろう程。
「尚更、手伝います!」
手すりもなく長い階段は登るだけでも大変なのに、重い荷物を持ちながらは最早危ない。
「やけど……」
この階段の大変さをよく知ってるお婆さんは、どうも気が引けるらしい。
「大丈夫ですよ。いい運動です!」
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