第1話 鈴厘神社

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もう結構な階段を登ったと思う。 後ろを見るとそれなりに段数を登った事が分かる。だけど、前を見るとそれは無惨にも錯覚だと思い知らされてしまうのだ。 「……まだ三分の一ぐらいかな……」 「せやから、止めときって言ったのに」 息が少し乱れた私に、お婆さんは言わんこっちゃないと苦笑した。 「大丈夫ですよ!まだじゃなくて、もうですから」 強がって発言を訂正すると、あとちょっとで半分やさい頑張ろう、と逆に応援されてしまう。 お婆さんは慣れているのか余裕そうにしていて、まだギリギリ十代の身なのに我ながら情けなく思う。 段々、自分のしている事に意味があるのか?と不安になってきた。 まあ、元気なのは何より。 それに最近はあまり運動してなかったから…… ちょっと体力が落ちたのかもしれないなあと日頃の運動は大切だと実感。 「そや、あんさん神社は好き?」 私より数段先を行くお婆さんは少し振り返って尋ねた。 特別好きな訳ではないけど、どちらかと言うと好きな方。 流行りのパワースポットや神霊等に興味は無いが、神社の独特な雰囲気が好きだった。 思った事を少し簡潔に述べるとお婆さんは少し意外そうにして笑った。 「じゃあ、うちの神社は来た事ある?」 「実は今日が初めてなんですよ」 私はずっとこの町に住んでた訳じゃない。 町に来たのは今から丁度、二年程前のこと。引っ越してからも何かと忙しくて散策など出来なかったから、未だに知らない所は沢山ある。 お婆さんはそうなん?と驚いた。 それもそうだろう。ここの神社は町では有名で、こんな長い階段でも参拝する人は多い。 今日は平日だけど、それでも何人かとすれ違った。 「身内が言うのもなんやけど、うちの神社は中々立派なんよ」 それからお婆さんは神社の事を教えてくれた。 鈴厘神社は歴史ある神社で昔から参拝客は多く、念願成就や縁結びに厄除けなど何処の神社でもある御利益もあるが一つ変わった謂われがあるらしい。 なんでも、千年に一度鈴厘の神様に選ばれた人は鈴華の者と呼ばれ、一番必要としているモノを与えられる、とのこと。  
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