第1話 鈴厘神社

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「必要なモノですか?」 それは物だけでは無く者でもある、とお婆さんは言う。 とても信じ難い事だけど、この地にずっとある言い伝えらしい。 「まぁ、簡単に言うたら自分の願いを叶えてくれるって事やな」 「願いを叶えてくれる……」 やっと半分まできた階段の先をぼんやりと見詰めぽつり、呟く。 私の願いか…… 「折角来たんやし、願掛けでもして行き」 しんどい思いして階段登ったんやから、と勧められる。 確かに神社に来たからには願い事をせずに帰るのは何だか悪い気がする。 だけど、私の一番の願いは叶わない。 叶う事などあり得ないのだ。 「どないしたん?」 私を見てお婆さんは気遣うようだったので、ふるふると首を横に振り明るく笑った。 「そうですね。今年の健康でもお願いします」 私も人間だ。ささやかな願い事なら沢山ある。 心の中で、ついでに紗季の新撰組への情熱も少しぐらい冷めるようにお願いしよう、と密かに思った。 「着いたー」 神社の話を聞いているうちに、ついに階段を登りきった。見上げた高さを踏破したのについ、達成感で買い物袋を持ったまま両手を上げる。 後ろを振り返ると長い階段を登った事を実感して、達成感はますます大きくなった。 「ご苦労さん。ほんま、助かりましたわ」 「お役に立てたなら頑張った甲斐がありますよ」 ふふ、と笑ってお婆さんは私を労った。 それから境内から少し離れた家に案内され、玄関の中へ通された。 「疲れたやろ?ちょっと休憩していきぃ」 そう言ってお茶を煎れてくると、お婆さんは奥へ入って行った。 紗季の事を考えると早く帰ろうと思い、連絡する為にスマホを鞄から取り出して見るとメッセージを一通、受信していた。 メッセージを開き、内容を確認すると相手は紗季だった。 読むと、どうやら雑誌を読んで白熱したらしく文は新撰組への情熱がこれでもかと綴られている。 暫く、帰らない方が良いかも…… 前にも同じものが送られてきた事があった。その時は新撰組をいつも以上に熱く語って、しまいには私に感想や意見を求めて、それはもう大変だった。  
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