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何も見なかったことにして、そっとスマホを鞄に仕舞うと、ちょうどお婆さんがお盆を手に戻ってきた。
「お茶受けに桜餅があったんやけど、甘い物は大丈夫やろか?」
静かに置かれたお盆を見ると、兎が描かれた陶磁の湯飲みには日本茶が湯気を立てており、二枚の赤い小皿には道明寺の桜餅が二つずつ乗せられていた。
「はい!むしろ大好きです」
実は大の甘い物好きで、和洋中問わずに甘い物なら好き。ケーキだって1ホールは軽いくらいの甘党。
「良かった。この桜餅、絶品なんよ」
食べてみ、と勧められ一口かじる。
「……美味しい!」
ふんわりと蒸された薄紅の道明寺に包まれたこし餡は丁寧に濾されていて、口の中で程好い甘さを残して消えてしまう程滑らかで。更に桜の葉の塩漬けでその甘さは引き締められ、ほんのり桜の香りが際立つ。
「やろ?この店の甘味は全部、絶品なんよ」
それから、お店の場所や他にお薦めの甘味処を教えてもらった。
お婆さんは私みたいに甘い物なら何でも、て訳では無いが和菓子なら好きらしく、暫く和菓子について盛り上がった。
すっかり冷めたお茶を飲み干し、そろそろ帰る事にして立ち上がる。
「今日は有り難うねぇ。良かったら今度は遊びにおいでな」
それとこれはお礼な、とお婆さんが手渡したのは小さな鈴。
艶やかな緋色の紐の先に細やかな装飾が施された鈴はこの神社特有の御守りらしく、ちりんと綺麗な音が鳴った。
「いいんですか?」
「お礼やから、遠慮せんで」
受け取るには少し抵抗があるが、断るのもお婆さんに悪い気がして、折角だから素直に受け取る事にした。
「ありがとうございます」
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