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私はまた来ると約束して、お婆さんに玄関先から見送ってもらった。
いつの間にか人が居なくなった境内を背に再び階段の前に立ち、一段下に足を下ろす。
「わぁ!」
急にぶわっと向かい風が吹き、私はとっさに腕を前に出して庇った。あまりに強い風に押されてよろけて倒れそうになる。
ちりん、ちりん、ちりん。
鈴の音……?
微かに複数の鈴の音が聞こえる。
きっと境内に飾られた鈴が風に揺らされて鳴っているのだろう。
そうは思うが、少し前の事を思い出す。
紗季といた時に聞こえた鈴の音。それとこの神社の事、鈴厘の神様。
いまだに吹く風の中、私は後ろを振り返った。
誰……?
後ろには少し離れた所に人が立っていた。
さっきまでは誰もいなかった、だけど不審に思う要素はそれだけではなかった。
一番に目についたのは、その人の着ている服。
和服という事は解るが、白を基調としていて巫女が着ている着物に似ているも、それより装飾が豪勢で。次に髪。その髪は見た事の無い綺麗な薄花桜の色をしていて、とても長い。
その風貌はこの世の者とは思えない程幻想的で神々しさを感じさせるほどだった。
この強い風の中、木々は軋むぐらい揺さぶられているというのに、その人の髪や服はなびく気配が無く、まるで静止画を見ている気分になる。
錯覚かと、幻を見ているのだと、思い始めた時だった。微かにその人の唇が動く。
『我が定めしの鈴華の者よ……』
確かに唇は動いているのに、声は耳ではなく頭に響き渡った。
鈴華の者?
それって言い伝えの……
『汝が必要とするモノを与えよう』
私が必要とするモノ?
頭に過るのは、私の一番の願い。叶わない願い。
でも、言い伝えが本当なら……
『さよう。しかし、鈴華の者よ勘違いをしてはならぬ』
勘違い?
否定的な言葉に思わず顔をしかめた。
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