勇帝の誓い(前編)

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 トン。  建造物から自分に向けて、不自然な振動を感じた。それは自分を叩いたというよりは、建造物を中心に広がった波紋の一部に接触したような感じである。 (…? この装置から…?)  分析の結果、自分に接触したのは目前の建造物を中心に、全方位に放出された振動波であることが判明した。とは言え、大気もない宇宙空間において、どのような手段で振動を伝達しているかは不明だが。 (全方位への振動波発生装置…? だが、その用途は何だ?)  答えの出ない飛燕は、しばらく装置の様子を観察することにする。  見た目はあくまでも建造中の装置でしかなく、所々に骨格のむき出し部分が発見できる。或いはそこから突入することも、不可能ではないだろう。  次に打つ手を考えていた飛燕に、再び振動の波が押し寄せる。  トンッ。 「……ッ!?」  先ほどよりも強い波だ。純粋なベクトル量で言えば、先ほどの2倍の力が働いているようである。 (…………振動波の増幅、か。これは思った以上に、危険なものかも知れんな)  例えば、周期的に振動波が放出されると仮定する。その威力が回を増すごとに増幅されたら、どのような事態に陥るだろうか。  確かに、そんな兵器に実用性は無いと一笑するのも、当然の流れではある。だが犯罪組織ハザードという存在は、この宇宙の常識に真っ向から敵対するような存在の集まりなのだ。 (…仕方あるまい。内部へ突入して分析、危険なものと判断すれば、拙者自ら手を下すことも考えねば、な)  飛燕は、決断から行動に移るまでの時間が限りなく短い。  結局増援を待たずに、そのまま見定めた未完成の区画から、堂々と内部に突入していったのである。
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